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可愛いと言われた僕と言われたい僕可愛いと言われた僕と言われたい僕 3

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1ページへ彼に嘘を吐いて友人になって少し経った。


もっと仲良くなりたい。教室で和気あいあいとしているクラスメイトのように。さも当然のように傍らへ行き、薄っぺらい内容の下らない話をして笑い合いたい。


「院南」


そう思いながら思い浮かべた人物が目の前に現れて、小さく声を漏らしてしまった。


「どうした?」
「ああ、うん。なんでもない」


ホームルームが終わったばかりの放課後。そんな時間に木月君が僕のところに来たことなんてなくて油断していた。


「木月君こそ、どうかした?僕に何か用事?」
「いや、用事ってか、一緒に帰ろうと思って」
「部活は?」
「今日は顧問が休みだから部活もそうしようって部長が」


サボりじゃなくて残念だったな、と笑う木月君。


「一緒に帰るのは良いけど、家の方向が違うかもしれな…」
「真っ直ぐ帰るわけないだろ。寄り道すんだよ」
「ああ…」


クラスメイトが帰りにどこに寄るか相談しているのは聞いたことがあったけれど、本当に寄り道しているんだ。

小中どちらも必ず家に帰ってから出かけていたからピンとこない。


「寄り道って、どこに?」
「ん?…あー、考えてねぇけど」
「…どこに行くのが正解?」
「知らね。寄り道に正解もなにもねぇだろ」
「そっか」
「つっても、俺も普段は部活の後そのまま家に帰ってるんだよな…家来るか?」
「え!?」


一緒に下校することにすら少し戸惑っているのに、さらにハードルの高いことを言い出す。

どうしよう。
友達の家に行った記憶を思い出したいけれど昔すぎて思い出せない。


「嫌か?」
「っ、行きたい!」
「…ふ、来たいのか。はははっ」


あまり出したことの無いボリュームの声が出て、自分でも驚いた。


「じゃ、途中でコンビニ寄って菓子買って家だな」


笑いながらそう言った木月君に連れられて向かったコンビニ。
僕の家の近所にある店舗より少し広くて、商品の数も多いようだった。


「院南、ポテチ何味が良い?」
「なんでもいいよ」
「よし、じゃあこの激辛を」
「それ以外」
「なんでもよくねぇじゃん」
「辛いの好きなの?」
「いや、全然」


スナック菓子が並んだ棚の前で悩む木月君から音を立てないように静かに離れて、こっそりスイーツのコーナーを見る。

甘いものはどれも見た目が可愛らしくて好きだ。


「院南、それ買う?」
「え?」


たまたま手に取っていたプリン。
普段はあまり食べないけれど、久しぶりに食べるのも良いかもしれない。


「うん、買おうかな」
「プリンとか女子かよ」
「…誰でも食べると思うけど」
「そうか?…まあ、院南なら女子の好きな物違和感なく似合うからな」
「似合うって…」
「ああ、可愛いよ」


特にからかう様子もなくサラリとそう言った木月君。

嬉しい気持ちと、店内で言われて恥ずかしいという思いが入り交じって体温が上がっている僕とは正反対だ。


体温が全く下がらないまま会計を済ませ、木月君の家へ向かった。


木月君の家は綺麗なマンションの15階。



「ただいま。」
「おじゃまします」
「母さん、友達連れてきた…返事ねぇな。出掛けてんのか」
「おじゃまして大丈夫?」
「おう。俺の部屋そこだから先に入って待っててくれ。コップとか持ってくわ」
「うん。ありがとう」


木月君がドアを開いた部屋に入る。人の部屋のドアを僕が開けて入るのは少し抵抗があったから木月君がしてくれた行動はありがたい。
こういう小さなことだけど、僕を気づかってくれているあたりがすごく優しいと思う。


木月君の部屋はいかにも男の子の部屋といった感じで、カーテンやベッドカバー等は緑や青だ。

部屋の入口付近に置かれた低めのラックの上に女性ものの髪飾りがあって、それだけが違和感。
他にも物や本はあるのに、髪飾りだけが女性ものだからだろう。ちょっと欲しいと思ったとかそういうんじゃない…はず。


「院南?」


両手に一つずつグラスを持った木月君が戻ってきた。


「…あ、おかえりなさい」


…あれ、おかえりなさい、は違うかな。
こういうときってなんて言うのが正解なんだろう。


「…うん、ただいま」
「え?あ、はい…」
「はい…、って、はははっ、なんでかしこまってんだよ」
「うん…なんでだろ」
「ったく、可愛いな」


そう言ってグラスをテーブルに置いてから、わしゃわしゃと僕の頭を撫でながら髪の毛をかき回す。
髪の毛で少し視界が遮られる。

僕の顔、木月君から見えてないかな。きっと少し頬が赤くなってしまっている。





「あ、そうだ。院南これやるよ」


そう言って目の前に差し出されたのは、さっきから気になっていた髪飾り。

それを僕の髪に着けて、木月はやさしく笑った。


「似合うよ、可愛い。」
「っー!」


じわじわと顔が熱くなる。
ダメだ、絶対に真っ赤な顔してる。


「…あの、これ、どうしたの?」


なんとか気持ちを誤魔化そうと話を振る。
そんなことで誤魔化すことができるか分からないけれど。


「あー………。母さんが」
「お母さん?」
「…母さんが自分で付けようと買ったんだけど、思いの外似合わなくて、俺の彼女にでもやれって」


…彼女

そっか、彼女。
木月君かっこいいし優しいから彼女くらい居るよね。そういう話をしなかった…というか、最近友達になったばかりだから知らなかった。


「じゃあ…彼女さんにあげた方が」
「ん?いやいや、いねぇから」
「え?いないの?」
「いなきゃマズイのか?」
「そういう訳じゃ…」
「じゃあ良いだろ。やる相手が院南でも」
「良いのかな…」
「似合ってるし、俺が院南にあげたいんだよ」
「うん、ありがとう」


赤い革の細いリボンの髪飾りは、絶対に普段着けることなんて出来ない。
それでも僕は嬉しくて、ふわふわと気持ちが漂う。


「大切にする」
「おう。…院南は男だから普段そんなの着けないだろうけどな」
「でも、ありがとう」


お互いに少し照れながら話していると、木月君の部屋の扉がノック音を響かせた。


「何?」
「灯矢、マリアちゃんが…あら?お友だち?」
「こんにちは、おじゃましてます」
「こんにちは」


木月君のお母さんは綺麗な方で、服装もおしゃれだ。

…この髪飾り似合いそうだけどなぁ。


「あ、そうそう。今、外でマリアちゃんに会ってね、今日1人だっていうから、うちで一緒に夕飯食べることになったの」
「は?」
「もうすぐ来るって」


じゃあ、と用件だけ告げて扉を閉めてしまった。



「あ、じゃあ僕はもう帰ろうかな」
「…悪い、院南」
「ううん」


マリアちゃんって言ってた。一緒に夕飯を食べるくらい親しい子。それこそ、木月君はいないと言っていたけれど、もしかしたら彼女みたいな存在かもしれない。


玄関で靴を履きながら頭の中で反芻するさっきの会話。
マリアちゃんとはどういう関係で、木月君にとってどんな存在なのだろう。


「近くまで送る」
「大丈夫だよ」
「でも」
「…僕は、女の子じゃないから」


可愛くなんてないから。か弱くもないから。


「…わかった。気をつけて帰れよ」
「うん、今日はありがとう。楽しかった」
「また、部活ない日遊ぼうな」
「…じゃあ、おじゃましました」


また遊ぼうって言ってくれたのに、返事をしなかった。
しなかったというよりは、できなかった。何故かは分からないけれど、言葉が出てこなかった。



fin

20160909

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