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ハイキュー!!年の瀬のはなし

季節的に真逆の話ですが、日向ハピバー☆

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1ページへ 夕暮れの商店街。
 
 その入口に自転車を止めたおれは、両手をコートのポケットに突っ込んだ。慌てて家を出てきたから、手袋もマフラーも忘れてしまった。今は自転車を漕いであったまってるけど、そのうち冷えてしまいそうだった。
 明日は大みそかのせいか、通りはいつもより人で賑わっていた。スピーカーから流れるBGMも、クリスマスの歌からお正月のものに変わってる。
 辺りをキョロキョロ見回すと、ようやく目当ての奴がやって来た。
「影山~!」
 おれは住宅街の方から歩いてくる影山に、ぶんぶんと手を振った。
「……おう」
 濃い青のダウンジャケットに、黒いマフラーを巻いた影山が、相変わらず無愛想な顔で、短く返事をした。
「三日ぶり? 変わってないなー」
 おれが明るく言うと、
「お前もだろ、このボゲ日向」
 口の悪さもそのままだった。そりゃ、人はそう簡単には変わらないだろう。
 むしろ変わったら怖いか。特に影山なんかさ。


 年内の部活も終わり、冬休みに入った。
 おれは大掃除やお正月の準備を手伝ったり、久しぶりにコージーやイズミンと会ったりして過ごしていた。もちろん、自主トレだってバッチリ! なるだけ沢山、ボールに触るようにしてる。
 そんな中、うちの餅つき機でお餅を作ったのが、今日の昼前。
 つき上がったお餅を餅カッターで切ると、大量の丸餅が出来た。
 すると『食べきれないからおすそわけ』という、ありがちな話になって。お母さんが『影山くんのお家にも持ってってあげなさい。よく泊めてもらってるでしょ』なんてことを言い出したのだ。
 そこで影山に、 
『お餅いる?』
 とメールすると、ほどなく、
『返すもんねーぞ』
 それだけ書かれた返事が届いた。

「はいこれ! 日向シェフ特製のありがたーいお餅な。あとお母さんがよろしくって」
 そう言いながら、おれが自転車の前カゴに乗っけていたスーパーの袋を差し出すと、
「自分で言うなっつーの」
 影山はそうツッコミつつ、袋を受け取り、
「…さんきゅ…」
 怒る時の百分の一ぐらいの声で、呟いた。
「おお、影山がお礼言った!」
 こいつの口からそんなことを聞くなんて、初めてじゃないか?
「物もらったら言うに決まってんだろ、このボゲェ!」
 しかし、ガアッと声を上げる姿は、もういつもの影山だった。
「まー気にすんな影山さん! うちには食いきれない位あるからさ」
 もらってくれて助かるところもあるのだ。
「くっ…」
 おおらかに笑うおれに、影山はどこか悔しげに歯噛みした。借りを作ってしまった気がしてるのかも知れない。しめしめ。
 だけど、ケンキョな(試験前、月島に教えてもらった言葉だ)所もあるおれは、ちょっとだけ態度を改めた。
「それに……お前ん家に泊まらせてもらったり、部活でも、世話になってないこともないし」
 でもおれの言葉に、影山が不思議そうに首を傾げた。
「世話? そりゃお前のプレーが、まだまだ下手クソだからだろ」
 人がせっかくケンキョになったのに……! 図星だけど腹の立つコメントが返ってきた。しかも影山は悪気があるというより、素でそう言ってるのだ。
「そこは伸びしろがあるって言えよ! それに、そういう意味とは違くて……おれ、去年の今ごろはお前のこと、存在しか知らなかったんだ。絶対倒してやるとしか思ってなくて。まさか一緒にバレーすることになるなんて、想像もしてなかった」
 影山がどういう奴かということも知らなかった。もちろん、今でも全部知ってる訳じゃないけれど。
「おれが新しい『景色』を見れたのは、お前のおかげでもあるから、一応な!」
 ……あれ? なぜかおれが影山にお礼を言う感じになってませんか? 何か途中から照れくさくなってきて、おれは逃げるようにそこまで言い切った。
「一応じゃねーだろ、このボゲ日向」
 影山に指でギュッと鼻の頭をつままれ、
「むぎゃっ」
 おれはしっぽを踏まれた猫みたいな声を上げた。
 影山がようやく手を離した時、木枯らしが吹いた。何もかも冬の向こうにさらっていってしまいそうな、強い風。
「へぶしゅっ!」
 おれは寒さで、思わずクシャミをしていた。
 気づけば、夕暮れの空はあっという間に夜に染まりかけている。
 これからおれは、あの坂を越えて帰るのか。この数日、コタツと仲良くなったせいか、ちょっと寒そうに思えてしまう。
「……」
 そんなおれの様子を黙って見下ろしていた影山が、おもむろに自分のマフラーに手をかけた。
「?」
 次の瞬間、目の前が黒い物に覆われたと思ったら――ふわっとした温かい感触に包まれる。
 その正体は、影山のマフラーだった。どういう風の吹きまわしか、こいつは自分が身につけてた物を、おれの首に巻いたのだ。
「え?」
 意味がわからず、キョトンするおれに、
「――餅の礼」
 影山がぶっきらぼうに言った。
「風邪ひくなよ」
 話は終わったといわんばかりに、さっさと背中を向けて帰ろうとする影山。でもそういうコイツも、寒さのせいなのか、心なしかその頬が赤く見えた。
「これ、くれんの?」
 といっても影山のお古だけど。
「貸すだけだボゲェ。来年会ったとき返せよ」
 影山はもう振り向きもせず、餅の入った袋を手に、歩き出していた。
「お……おう。じゃあな!」
 来年。
 それはすぐそこまできている。
 年が明けたら、烏野バレー部のみんなで初詣に行く約束だ。今のメンバーでやれる時間は、あと少し。
 おれは自転車を走らせながら、来年の初詣で何をお願いするか考えていた。
 ――来年も元気にバレーできますように。春高、勝ち抜けますように。それから……。
 借りたマフラーのおかげで、手袋がなくてもそんなに寒くなかった。黒い毛糸はカラスの羽根のようで、かすかに影山の匂いがした。
(来年こそ、影山に勝てますように……とか?)
 実際、その気持ちもある。今よりもっと実力をつけて、あいつをギャフンと言わせたい。
 だけど、それだけじゃ物足りない気もする。
 一体、何だろう。
 時々、首もとにマフラーの毛が当たって、くすぐったい。でも外したいとは思わなかった。
 目の前には、長い上り坂。
 ――おれは一体、何を願うだろう?
 自分にそう聞きながら、おれは坂を上りきるべく、ペダルを強く踏みこんだ。

 

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