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禁断レポート禁断レポート14話

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ここは大嫁製薬本社ビル地下一階のモニタールーム。朝の見回りのため警備員は不在で、部屋の壁一面を覆う約30台分のブラウン管の画面には、随所に設置された防犯カメラの映像が延々と流れている。
そのうちの一台に、営業戦略部へと続く5階エレベータ前の映像が映っていた。右下のカメラのタイマーは『AM8:01』。就業時刻のおよそ20分前だ。
防犯カメラは、次々とエレベータを出てはオフィスへ向かう社員たちの姿を、じっと映し続ける。

――次の瞬間。

カメラの映像は、とたんに現れた陰によって遮られてしまった。画面には、シルバーメタリックの奇妙な円球体が映っている。それがいま、画面のほとんどを占領している。地上2メートルに取り付けられた、カメラレンズの前でだ。全体にパズルのピースを組み合わせたようなつぎはぎが施されており、前方に一回りほど小さな石(のようなもの)がはめこまれている。石の色は赤く半透明で、中央に小さな黒い斑点のような模様がほどこされている。

それは見ればみるほど謎が増した。
奇妙なことに、赤い石のなかの黒い斑点の部分だけが、数秒おきに点滅している。
まるで何らかの電磁信号をあらわすかのように、一定の速度でチカチカと。その間も『当体』はふらふらとレンズの前を浮遊しつづけ、動くたび黒い斑点が、生き物のように大きくなったり小さくなったりと揺らめいていた。

その不気味なかたちを例えるなら、(大きさも同等に)人間の眼球に一番ちかいかもしれない。
つぎはぎの円球体は白目、赤い石は角膜の部分。大小と大きさを変える黒い点は、瞳孔(どうこう)とよく似ている。
瞳孔(どうこう)は本来、大きくなったり小さくなったりして、目的の対象物にピントを合わせるというが。では正体不明の『それ』には、ヒトの眼球と同じく、そこにある光景をリアルタイムで『見る』ための機能を備えているとでも言うのだろうか――?

答えが出る間もなく、『それ』はひとしきりカメラレンズの前を漂ったあと、ふと向きを変える。
まるでヒトがくるりと方向を転換するかのように、赤い石の矛先を後方にかえた。
真下には、オフィスに向かわんと列をなす人々がいた。その後を追うように、ふらふらと『それ』も上空を浮遊する。朝から疲れ切った顔をしたサラリーマンたちの頭上を、正体不明の球体が、火の玉のようにフラフラと飛んでいる。まさしく異様な光景である。
しかし資料や新聞に目を落とす者が大半。奇怪な飛行物体に気付く者は一人もいない。

ミーティングルーム、第一会議室、商談室、人材開発部……。
 モニター室の画面は、数十秒きざみで映像が切り替わっていく。まるで人の流れを監視するかのように、エレベーター側から廊下の奥へ。各部屋に取り付けられた防犯カメラの映像が順番に表示される。謎の球体は映像の流れにそって、つねに画面に映りこんでいる。社員たちの足取りを追っているかのように。

やがて、手洗い場付近の映像にかわる。めずらしく混雑している。黒いスーツを纏った男数人が、出入り口を陣取っているせいだ。 通行人ははじめ迷惑そうに端へ寄っていたが、通りすがりざまにはっと顔をあげ、慌てた様子で会釈をしながら立ち去っていく。
それを数回繰りかえした頃、手洗い場から一人の若い男性社員が出てきた。足元はおぼつかなく、どこか覇気がない。彼は紺色のショルダーバックを両手で抱え、しきりに口元を拭っていた。
その後に、もう一人出て来る。次の男性も若い。画素の荒い画面でも恵まれたルックスが際立つ男だ。こちらは機嫌がいいのか、うすら笑いすら浮かべている。刹那。黒いスーツの集団が一斉に彼らを取り囲んだ。

――モニターの画面は、ここで新たな映像に切り替わる。いつしか奇妙な浮遊物は姿が見えなくなっていた。

『営業戦略部』と掲げられたプレートの真下で、数人の男女が神妙な面持ちで顔を突き合わている。一人は女性で、残るは50代そこそこの中年の男ばかり。女性の隣で面倒くさそうに相槌をうつ50代前後とみられる男は、『清川茂』と記載したネームプレートをダランと顔の前に垂らし、なにやら頭を下げている様子――。
「ふぃ?。やあっぱ朝の冷気はこたえるな」
もぬけの殻だったモニタールームに、突然バタンっと音がして、朝の見回りと検収をすませた警備員の男が戻ってきた。

男は丸太のようにまるまるとした五本の指を寒そうにすりあわせると炬燵のスイッチを入れ、三十数台のブラウン管と向き合いどかっと腰を落とす。
そして上下左右に連なる画面の羅列をひととおり眺めまわし、
「よし。今日も異常なし、と」
平穏無事な朝を祝い、そこにあった缶ジュースの飲み口を開ける。
しゅわっと炭酸が抜ける音。同時に『清川茂』のネームプレートを映した映像は、エレベータ前の風景へ逆戻りした。





(おいおい。今度は将軍様のお出ましかよ。まじでどうなってんだ)
山室にひきずられ、まもなくオフィスに到着するという所で、清川はまたも足止めをくらっていた。
「とにかく、はやく来てください」とやけに急かされるので、とりあえず駆けつけてみれば。将軍様、もとい営業本部長の渡貫(わたぬき)が、数人の取り巻きとともにオフィス前を陣取っているではないか。「本部長、お待たせして申し訳ありません!」と青ざめた顔で頭をさげる山室を見て、清川もいよいよ青ざめてきた。
山室が一課(うち)のせいで社内が大変な事態に陥っていると言っていたが、どうやら本当に、想像だにしない相当な規模のようだ。ちょっとやそっとの案件で、うちの幹部連中が重い腰をあげるわけがない。これは本当に――異常事態だ。

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